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金融システム分析日本銀行

金融システムレポート(2026年4月号)

日本銀行 / 2026年4月

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原典: https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsr260421.htm


日本銀行が年2回公表する、わが国金融システムの安定性をマクロプルーデンスの視点から点検する基幹レポートの2026年4月号。中東情勢の緊迫化と原油高、海外ノンバンク部門の拡大、「金利ある世界」への移行という外部環境の大きな変化のもとで、金融機関の収益力・各種リスク・資本の頑健性を多面的に評価している。

概要

日本銀行は、わが国の金融システムは全体として安定性を維持していると評価している。金融機関は、リーマンショック型の調整、原油高・金利急騰・AI期待縮小が同時に生じる複合ストレスなど多様な状況に耐え得る、充実した資本基盤と安定的な資金調達基盤を備える。企業の資金需要が増加するなかで融資姿勢は積極的で、金融仲介は円滑に行われ、現在の金融活動に大きな不均衡はみられない。一方で、2月末以降の中東情勢緊迫化による原油価格の大幅上昇、海外大手ハイテク株や海外ノンバンク部門(ヘッジファンド等)の投融資活動が、様々な経路で金融システムに及ぼす影響を丁寧に点検する必要があるとする。より長期的には、人口・企業数の減少を背景とした構造的な借入需要の減少が、地域金融機関の収益力・損失吸収力を趨勢的に押し下げ、金融仲介の停滞や過度な利回り追求といった双方向のリスクにつながり得る点に留意を促している。

マクロ・金融環境と「金利ある世界」

今号の問題意識の起点は、2月末以降の中東情勢の緊迫化である。これを受けて原油価格は大幅に上昇し、資産価格や長期金利が大きく変動した。レポートは、企業の原材料調達コストの高止まりやサプライチェーンを通じた生産下押しが、企業財務や資金繰りに影響を及ぼすリスクに注意が必要としている。

資産価格面では、株価はヒートマップ上で「赤」が点灯するなどトレンドから上方乖離した状態が続く。PERは予想EPSの上昇を背景に概ね2008年以降の平均並みだが、株式リスクプレミアムを示すイールドスプレッドは金利上昇のなかで幾分低下している。不動産価格は大都市圏を中心に上昇が続き、建設コスト高騰・人手不足による供給制約に加え、投資用マンションや海外投資家による商業用不動産取引などの需要も寄与している可能性がある。賃料は上昇しているものの、不動産リスクプレミアムを示すイールドギャップの低下傾向は続く。預金金利も、昨年12月の政策金利引き上げを受けて多くの金融機関が普通預金金利を0.3%程度まで引き上げており、文字どおり「金利ある世界」への移行が進んでいる。

地域銀行のコア収益力と構造課題

金融機関の当期純利益は増益が続き、信用コスト等の損失が抑制されるもとで、基礎的収益力を示すコア業務純益が改善している。投資効率を表すRORA(コア業務純益/リスクアセット)は、国内借入需要の低下という構造要因と長引く低金利のもとで長らく低下傾向にあったが、円金利上昇等を背景に近年は上昇に転じた。経営効率を示す修正OHRも全体として改善傾向にあり、非資金利益も大手行の国際業務でプロジェクト・ファイナンス等の融資取扱手数料増加が寄与している。

ただしレポートは、この収益改善が構造課題を覆い隠している可能性を繰り返し指摘する。今回の金利上昇局面を前回(2005年以降)と比べると、地域金融機関では預金金利の引き上げ幅が定期預金を中心に小幅にとどまる一方、貸出金利は前回局面より上昇幅が大きい。しかし、構造的な借入需要の減少と貸出先の信用力改善が続くため、利上げ時点の貸出利鞘そのものの大きさは前回局面に比べて大幅に圧縮されている。経費面では、システム投資を含む物件費と人件費の増加が経費を押し上げており、レポートはデジタル投資による資本装備の充実など生産性向上を明示的に求めている。企業部門では実質無借金企業の割合が趨勢的に増え借入超企業の割合が減るなど、借入需要の構造的減少が裏付けられる。預金面でも、高齢化・人口減少や相続預金の移動、ネット専業銀行の高めの金利設定を背景に、地域金融機関の預金シェアは低下傾向にある。上場銀行のPBRは全体として上昇したが、地域金融機関には依然0.5倍を下回る先も多い。

信用コストと不動産関連融資のリスク

足元の信用リスクは総じて落ち着いている。信用コスト率は低位に抑制され、正常先比率は高水準、破綻懸念先以下の比率は歴史的低水準にある。企業倒産・デフォルトは感染症拡大前を上回る水準ながら横ばい圏で、デフォルト率の上昇ペースも鈍化している。もっとも、既往の原材料価格・人件費の上昇が財務脆弱な企業を中心に追加負担となり得るほか、感染症拡大前から「営業赤字」「債務超過」であった企業のデフォルト寄与が引き続き大きい点に留意が必要とされる。なお、金利上昇を直接の倒産要因とする企業は僅少で、企業部門全体の金利耐性はICR上昇・負債比率低下を背景に高まっている。

レポートが繰り返し注意を促すのが不動産関連融資である。不動産業向け貸出は全産業対比で速いペースで増加を続け、国内貸出に占める割合が趨勢的に上昇している。問題は量だけでなく与信先構成の質的変化で、個人による貸家業向け以外の不動産業向けや不動産ファンド向けに徐々にシフトしている。大手行では貸出利鞘が相対的に厚い不動産ファンド向け(SPC)やREITを含む中小企業等向けが、地域銀行ではオフィスビル等に伴う不動産ファンド向け・非居住用賃貸向けが増加。不動産ファンド向けはJ-REIT・私募REIT以外の不動産SPC向けが牽引し、貸出先は東京が過半で大口案件が多い。住宅ローンは物件価格上昇で1件当たり借入額が大口化し前年比+3%台前半で増えている。海外向けでも、海外ファンド向けやデータセンター向け、プライベートクレジット(PC)関連のように、返済原資となる対象資産の評価や技術革新で信用力が大きく変化し得る固有リスクを持つ貸出が増えている。

不動産関連貸出が国内貸出全体に占める割合(2025年9月末時点)
区分国内貸出全体に占める割合
住宅ローン24.4%
不動産賃貸業・取引業向け9.9%
個人による貸家業向け(アパートローン等)4.8%
不動産ファンド向け3.9%
(参考)海外貸出のノンバンク部門向け割合29.2%(海外貸出全体対比)

有価証券運用・金利リスク・含み損益

金融機関は円債を中心に抑制的な有価証券投資スタンスを維持している。円債・外債を合わせた金利リスク量を自己資本対比でみると、大手行は概ね横ばい、地域金融機関ではやや低下傾向にある。大手行は昨夏以降、キャリー収益の獲得を企図して中長期年限の日本国債を幾分積み増したが慎重な投資スタンスは維持し、地域金融機関は長めの年限の残高を減らす年限間リバランスを続けている。銀行勘定全体でみた円貨金利リスク量は自己資本対比で低位に抑制されており、総じて十分な損失吸収力を有すると評価される。

含み損益については、既往の金利上昇で保有円債の評価損が拡大しているものの、円債残高の削減やデュレーションの短期化が続くため、金利耐性が相対的に低い先でも損超幅は昨年3月頃と同程度にとどまる。株式保有比率が低く円債保有比率が高い信用金庫では相対的に大きな損超となっている。今後はロールダウン効果による債券価格の上昇が見込まれるほか、改善したコア業務純益が自己資本の蓄積を通じて損失吸収力の高まりに寄与するとみられる。

ストレステストと資本の頑健性

金融機関の自己資本は規制水準を十分に上回る。2025年度上期の国際統一基準行のCET1比率、国内基準行のコア資本比率はいずれも規制水準を大きく超過した。日本銀行は、銀行106行と信用金庫247庫を対象に、2025年10〜12月から2029年1〜3月までを期間とするマクロ・ストレステストを実施。ダウンサイドとして、リーマンショック同規模の「金融調整シナリオ」と、地政学リスク顕在化に伴う海外金利上昇・海外経済減速を想定した「海外金利上昇シナリオplus」の2本を用いた。後者では原油価格の上昇幅を前回より拡大し、AI関連投資の収益性期待の縮小やノンバンク部門の長期国債への投資スタンス消極化という追加ストレスも勘案している。

結果として、これらのストレスのもとでも各業態の自己資本比率は平均的には規制水準を上回り、金融システムは安定性を維持できると評価された。金融調整シナリオでは、金利低下による利鞘縮小、信用コスト増加、リスク性資産価格下落が自己資本比率を押し下げ、とくに金利低下に伴う貸出利鞘縮小の影響が大きい国際統一基準行で低下幅が大きい。さらに、内外の投資ファンドによるストレス増幅を明示的に勘案した分析では国際統一基準行で追加的に約1%pt押し下げられ、ノンバンク部門の動向が金融機関の財務基盤に波及し得る点に留意が必要とされる。

マクロ・ストレステストの自己資本比率(2028年度末、図表からの読み取り値)
業態ベースライン金融調整シナリオ
国際統一基準行約13.1%約10.1%
国内基準行(銀行)約10%台前半約7.9%
国内基準行(信用金庫)約13〜14%約11.5%
海外金利上昇シナリオplusの主な想定(ベースライン対比の最大乖離等)
変数想定
日米長期金利+1.5%pt(米FFレートは+2%pt)
米国株価(AI関連銘柄)▲50%程度
日本株価▲40%程度
ファンド価格▲30%程度
米国/日本の実質GDP▲5%程度/▲4%程度
原油価格(WTI先物)一時200ドル/バレル→過去最高水準140ドルで高止まり

サイバーセキュリティと新技術への対応

デジタル面では、国内のランサムウェア被害件数が高水準で推移し、フィッシング攻撃の増加を背景にインターネットバンキングの不正送金被害が過去数年で大きく増加するなど、サイバー攻撃の脅威は高い状態が続く。生成AI・自動化ツールを悪用したランサムウェアやフィッシングメール、ディープフェイクによる巧妙かつ大規模な攻撃が容易になっているほか、国家支援を受けた攻撃や、自然災害・地政学イベントに合わせて急増する攻撃も指摘される。日本銀行が取引先金融機関381先(大手行10・地域銀行97・信用金庫247・その他27)に行ったアンケートでは、サイバー攻撃を業務継続上の緊急事態として想定する先が9割以上に達し、約10年前から大幅に増え、今や震災・感染症に次ぐリスクと認識されている。レポートは、対策を講じてもなおインシデントは発生することを前提に、経営層の関与のもとでガバナンス・体制強化、投資、人材育成を継続し、ITレジリエンスを高めることを明確に求めている。

新技術では、ステーブルコインの時価総額がグローバルに拡大しつつあり、米GENIUS法やEUのMiCA、わが国の改正資金決済法など制度整備が進む。利便性の一方で、MMFと類似の資産負債構造に起因する取付や裏付資産の大規模売却を通じた市場波及、ハッキング・不正流出、資本規制の迂回や規制裁定といったリスクが論点として整理されている。また、量子コンピュータの実現で公開鍵暗号の安全性が損なわれる懸念から耐量子計算機暗号(PQC)への移行が課題となり、政府機関等は原則2035年までの移行が目指され、金融機関にも経営層が関与する形での事前準備の早期着手が期待されている。なお気候関連金融リスク(物理的・移行リスク)への対応も継続課題とされる。

デジタル・サイバー・新技術関連の主な記載
項目内容
ランサムウェア被害/ネットバンキング不正送金被害は高水準で推移、不正送金は過去数年で大きく増加
サイバー攻撃を業務継続上の緊急事態として想定する先9割以上(2025年調査、対象381先、約10年前から大幅増)
業界横断演習 Delta Wall 202510回目、過去最多の177先が参加
耐量子計算機暗号(PQC)移行目標政府機関等は原則2035年まで
ステーブルコイン制度整備米GENIUS法、EU MiCA、わが国改正資金決済法による保全規制
京都銀行 DX本部長への示唆
  • 金利上昇による収益改善は循環要因であり、構造的な貸出利鞘の圧縮を覆い隠している可能性が高い。DX投資を単なる経費削減でなく、非資金利益(手数料)拡大や修正OHRの改善を通じた収益構造の転換に結びつける視点が不可欠である。
  • 人口・企業数の減少と実質無借金企業の増加による借入需要の趨勢的減少、地域金融機関の預金シェア低下は、中長期の収益・調達基盤を同時に侵食する。デジタルを起点とした新たな顧客接点・収益源・域外顧客の開拓と、預金基盤の安定維持を経営課題として明確に位置づけたい。
  • サイバーインシデントは「起こる前提」で備える局面に入った。生成AIを悪用した攻撃が高度化し想定リスクが震災・感染症に次ぐ水準まで上がっている以上、経営層自らの関与でガバナンス・体制・投資・人材育成を継続し、ITレジリエンスを高めることが本部長の責務として求められる。
  • 不動産関連・ファンド向け与信は量・質ともに変化している。自行ポートフォリオの与信先構成を可視化し、価格変動や過去と異なる波及経路を想定したリスク管理・モニタリング基盤の高度化をDXの対象に含めるべきである。
  • ステーブルコインやPQCは制度整備が進む領域で、経営層関与での早期準備が期待されている。様子見ではなく、クリプトインベントリ作成や移行ロードマップ策定など準備の優先順位付けに着手すべき経営アジェンダである。