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業績・統計地銀協

2025年度 地方銀行決算の概要

全国地方銀行協会 / 2026年6月17日 公表

chiginkyo-regional-bank-results-2025.pdf…-2025.txt…-page.html…-bankdata.xlsx

原典: https://www.chiginkyo.or.jp/data/result/


2025年度(2026年3月期)の地方銀行決算は、コア業務純益が前年同期比+34.7%の22,412億円、当期純利益が+38.3%の15,757億円と、いずれも記録的な大幅増益となった。けん引したのは日銀の金融正常化に伴う貸出利回りの上昇と、株高を背景とした株式の売却益である。ただし、この好業績の大半は金利・株価という循環的・市場依存的な追い風によるもので、地方銀行の構造的な収益力そのものが一段と高まったわけではない点に、新任のDX責任者として最初に留意したい。

概要

全国地方銀行協会が2026年6月17日に公表した本資料は、会員地方銀行(単体ベース)の決算を集計したものである。中核的な稼ぐ力を示すコア業務純益は22,412億円(前年比+5,771億円、+34.7%)、本業に有価証券損益などを加えた経常利益は21,745億円(+6,150億円、+39.4%)、最終の当期純利益は15,757億円(+4,367億円、+38.3%)と、いずれも3〜4割の増益となった。増益の二本柱は、金利上昇による資金利益(≒貸出と預金の利ざやから生まれる利益)の増加と、株高を取り込んだ株式等関係損益である。一方で、経費は前年から増加し、信用コスト(貸倒れ関連費用)も上昇しており、利益の「質」を見極める必要がある。数字の大きさに目を奪われず、「何が利益を動かしたのか」「それは続くのか」を切り分けて読むことが、本決算の正しい受け止め方となる。

収益の中身:何が増益を生んだか

経常利益は前年の15,594億円から21,745億円へと増えたが、その内訳を要因分解すると、利益の出どころが鮮明になる。最大の押し上げ要因は資金利益の+6,351億円で、これは後述する貸出利回りの上昇が直接効いている。これに匹敵する規模で効いたのが株式等関係損益の+6,133億円、すなわち保有株式の売却益などである。注目すべきは、この株式の益出しと並行して、国債等債券関係損益が▲5,737億円のマイナスになっている点だ。これは、低い利率で抱え込んでいた含み損のある債券を売却して損失を確定させた動きを示す。つまり地方銀行は、好調な株式の売却益を原資に、金利上昇で重荷になっていた古い債券ポートフォリオの入れ替え(損切り)を一気に進めた、と読める。

本業の地力を示すコア業務粗利益も39,454億円から46,613億円へ大きく伸びた。その中身は資金利益が33,923億円から40,274億円へ、役務取引等利益(手数料収入)が5,756億円から6,031億円へと増加したものである。手数料収入の伸び(+275億円)は資金利益の伸び(+6,351億円)に比べれば小さく、増益はあくまで利ざや拡大が主役で、フィービジネスの構造的な底上げによるものではないことが分かる。

預金・貸出の量と利回り

増益の最大要因である資金利益を理解するには、預貸金の「量」と「利回り」の両面を見る必要がある。量の面では、国内貸出金残高が前年比+4.6%(+11兆円)の269兆円と、預金(+1.9%、+6兆円の348兆円)を上回るペースで伸びた。貸出の内訳では中小企業向けが119兆円と最大の塊を占め、大企業向けが48兆円、個人向けが76兆円である。とりわけ大企業向けの伸びが目立ち、資金需要の回復を映している。預金側は個人預金が227兆円と分厚い低コスト調達基盤を形成しており、これは競争激化時の強み(フランチャイズ価値)になる。

より本質的なのは利回り(価格)の面である。貸出金利回りは前年の0.98%から1.22%へ+0.24%pt上昇した一方、預金利回りは0.06%から0.21%へ+0.15%ptの上昇にとどまった。この結果、両者の差である預貸金利回り差は0.92%から1.01%へ+0.09%pt拡大した。金利上昇局面では、変動金利の貸出は比較的速やかに金利が上がる一方、預金金利の引き上げは遅れる。貸出金利が預金金利より速く上がること(利ざやの拡大)こそが、資金利益増の正体である。逆に言えば、今後預金金利の引き上げが進めばこの差は縮小に転じうるため、足元の利ざや拡大を「恒久的なもの」と見なすのは危険だ。

預金・貸出金の残高と利回り(国内・末残、2026年3月期)
区分残高前年比利回り前年比
預金348兆円+1.9%(+6兆円)0.21%+0.15%pt
貸出金269兆円+4.6%(+11兆円)1.22%+0.24%pt
預貸金利回り差1.01%+0.09%pt

経費・OHR:効率化は「実力」か「追い風」か

経費率を示すOHR(経費÷コア業務粗利益)は前年の57.8%から51.9%へ大きく改善した。数字だけ見れば劇的な効率化に見えるが、ここに落とし穴がある。OHRは分母(粗利益)が利ざや拡大で急増したために下がったのであり、分子である経費はむしろ増えている。経費総額は22,813億円から24,200億円へ+1,387億円増加し、その内訳は人件費が10,985億円から11,622億円へ、物件費が10,218億円から10,783億円へと、いずれも増えた。これは賃上げやシステム・物価コストの上昇を映したもので、OHR改善は「コスト構造を絞り込んだ実力」ではなく「収益の追い風が経費増を覆い隠した結果」である。追い風が止めばOHRは再び悪化しうる、という前提で読むべき指標だ。

経常利益の前年比増減要因(15,594億円→21,745億円、単位:億円)
要因増減
資金利益+6,351
株式等関係損益+6,133
その他業務利益+533
役務取引等利益+275
その他+180
一般貸倒引当金繰入額▲198
経費▲1,387
国債等債券関係損益▲5,737

有価証券・健全性(自己資本・不良債権)

有価証券残高は2026年3月末で73兆9,999億円(債券40兆541億円、株式8兆3,483億円、その他25兆5,974億円)である。注目は評価(含み)損益で、合計は2024年3月末の17,239億円、2025年3月末の28,527億円から40,621億円へと拡大した。その内訳は、株式の含み益が55,225億円と分厚い一方、債券は▲10,103億円の含み損を抱える構造である。重要なのは、債券の含み損が前年の▲33,361億円から大幅に縮小している点だ。これは前述の損切り(国債等債券関係損益▲5,737億円)によって含み損を実現損へ振り替えた結果であり、株式の含み益という「市場の恵み」で債券ポートフォリオを健全化したという資産運用上の動きが裏付けられる。

健全性指標は明暗が分かれる。信用コストは1,459億円から2,352億円へと約900億円増加しており、好業績の裏で与信費用が膨らんでいる点は見逃せない。一方、不良債権(金融再生法開示債権)額は41,801億円、対総与信比率は1.55%から1.47%へ低下し、比率上は改善した。ただしこの比率改善は、分母である総与信が貸出増で膨らんだ効果も大きい。内訳では危険債権が26,755億円と最大で、貸出条件緩和債権は7,463億円へ減少した。自己資本比率は、国際統一基準行(9行)が13.96%(+0.40%pt)国内基準行(52行)が10.21%(▲0.07%pt)で、国内基準行はわずかに低下した。なお信用リスクの計測手法は、国内基準行52行のうち32行が最も簡素な標準的手法を採用しており、内部格付手法(先進的1行・基礎的19行)の高度化は道半ばである。

追い風と構造課題の切り分け

本決算を実務的に解釈する核心は、「短期の追い風」と「構造課題」を切り分けることにある。追い風は二つで、いずれも循環的・外部要因だ。第一に金利上昇による利ざや拡大(資金利益+6,351億円)。これは貸出金利が預金金利より速く上がる過渡期の現象であり、預金金利の追随が進めば縮小する。第二に株高による株式等関係損益(+6,133億円)。これは株式市場次第の益出しであり、保有株を売れば翌期以降の原資は減る。つまり利益の二本柱は、いずれも自行の努力ではなくマクロ環境が運んできたものである。

これに対し構造課題は静かに進行している。経費は人件費・物件費とも増加基調(総額24,200億円)にあり、OHR改善は追い風が覆い隠しているにすぎない。信用コストは2,352億円へ上昇し、物価高・金利上昇が借り手の返済力に与える影響が表面化し始めた可能性がある。手数料収入の伸びは限定的で、非金利収益への構造転換は進んでいない。結論として、本決算は「過去最高水準の利益を、構造改革に充てる絶好の原資が得られた年」と位置づけるのが正しい。追い風が吹いている今こそ、追い風が止んだ後に効く投資を仕込む局面である。

京都銀行 DX本部長への示唆
  • OHR改善を「実力」と誤読しない。51.9%という数字は収益急増の副産物であり、経費そのものは増えている。追い風が続く今こそ、店舗・チャネル改革や事務自動化など構造的なコスト削減のDX投資を、利益という原資があるうちに前倒しで実行すべきである。
  • 利ざや拡大は「価格決定力(プライシング)」を磨く好機。貸出金利上昇が増益を生んだ今、データに基づく動的な貸出金利設定と、低コストな個人預金227兆円を守り抜く預金フランチャイズの強化に投資したい。預金金利の追随が始まれば利ざやは縮むため、その前に顧客接点をDXで固める必要がある。
  • 信用コスト上昇に先回りした与信DXを。信用コストが2,352億円へ増えた一方、地銀の多くは簡素な標準的手法にとどまる。取引・口座データを使った早期警戒モデルや内部格付の高度化は、リスク管理であると同時に収益機会でもあり、DX本部が主導すべき領域である。
  • 有価証券運用のDX(ALM・データ基盤)を強化する。株式の含み益で債券の損切りを賄えたのは幸運だが、これは裏返せばポートフォリオ管理の脆さでもある。市場変動を可視化するALM・運用のデータ基盤を整え、市場頼みでない収益安定化につなげたい。
  • 最大の貸出先である中小企業(119兆円)向けにDXで付加価値を。金利だけに頼らず、決済・資金繰り・補助金支援など埋め込み型金融で取引基盤を深掘りし、利ざやが縮む局面でも選ばれる関係をDXで構築することが、構造的な収益力につながる。